自社株買いの目的と効果について解説します!
自社株買いは好材料として知られていますが、その自社株買いにはどういった目的・効果があるのかをまとめました。
⓪自社株買いとは?
自社株買いとは、企業が発行している株式をその企業自身が買い戻すことです。
個人投資家と同じように市場が開いている平日の日中に買うこともあれば、東証が提供している取引時間外の取引制度(ToSTNeT)を利用する方法もあります。
この自社株買いのIR(investor relations=投資家向けの広報活動)が出ると投資家には様々な面でプラスに働きます。
①自社株買いの買い付けルール
最初に小難しい点を確認します。簡潔にまとめたのでご安心を!
「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」の第19条および第23条などによると、自社株買いの買い付けについて以下のルールが記されています。
★1日の中で2社以上の証券会社から買い付けを行わないこと
★寄付前の買い付け注文では、前日の終値以下の指値注文のみ可能
★寄付後の買い付け注文では、その日の高値を超える指値注文ができない
★大引け前の30分間(14:30~15:00)は買い付けができない
★1日の買い付け量は、直近の4週間における1日あたりの平均取引量の25%が上限となる
株価操縦行為を防ぐため、このようなルールがあります。簡潔な言葉でまとめると
●買い煽るような指値はダメ
●終値に影響する14:30以降もダメ
●1日の中で買いすぎるのもダメ
ということになります。
これを踏まえて、自社株買いの目的や効果を確認していきましょう。
②株式価値の向上、下支え
自社株買いを行うと、株式価値が向上します。
昨今、在庫不足になっているニンテンドースイッチを例にしてみましょう。
ニンテンドースイッチを「株式」、子どもを「投資家」と置き換えます。
今、日本にはニンテンドースイッチが500台あります。
そして、子どもの人数は1000人とします。
ニンテンドースイッチが欲しい子どもがいれば興味がない子どももいるので、今現在の需給は普通です。
ここで、任天堂がニンテンドースイッチを自社株買いして、日本に出回るニンテンドースイッチの数を200台にしました。
すると、子どもたちの需要の方が大きくなるため、皆がこぞって求めるようになります。
どうしても欲しいので、価格が上昇しても買おうとします。
このように、自社株買いは市場に出回る株式の数を少なくする効果があるため、供給が絞られます。
そのため、結果として株式の価値は上昇することになります。
また、個人投資家とは比べ物にならない強大な買い手がつくことになるので、株価の下支えとして機能します。
③PERの低下
PER(Price Earnings Ratio)は 日本語に訳すと【 株価収益率 】です。
PER=株価÷EPS(1株当たりの純利益)で求められ、株価が1株当たりの利益の何倍になっているかを表しています。
そして、PERが低いほど株価は割安であると判断されます。
EPSはEarnings Per Shareの略であり、日本語に訳すと【 1株当たりの純利益 】のことで、純利益÷発行済株式数で求められます。
【 例 】株価1000円、純利益が1000万円、発行済株式数が5万株の企業
元々は
PER=1000円÷(1000万円÷5万株)=5倍
ここで、1万株の自社株買いを行うと
PER=1000円÷(1000万円÷4万株)=4倍
自社株買いによって、PERが1倍下がりました。
PERが下がったということは、より割安な状態に近づいたということになります。
自社株買い⇒発行済株式の減少⇒EPSの上昇⇒PERの低下ということですね。
④PBRの低下
PBR(Price Book-value Ratio)は日本語に訳すと【 株価純資産倍率 】です。
PBR=株価÷BPS(1株当たりの純資産)で求められ、株価が1株当たりの純資産の何倍になっているかを表しています。
そして、PBRの数字が小さいほど株価は割安となります。
BPSはBook-value Per Shareの略であり、日本語に訳すと【 1株当たりの純資産 】のことで、純資産÷発行済株式数で求められます。
2020年5月2日13:00追記
※自社株買いをすると「純資産」と「発行済株式数」の両方が減少するため、両者のバランスによってBPSは上昇もしくは減少します。
【 自社株買い実施前のPBRが1倍未満 】の企業が自社株買いをすると、BPS(1株当たりの純資産)が上昇してPBR(株価純資産倍率)は低下します。
【 自社株買い実施前のPBRが1倍以上 】の企業が自社株買いをすると、BPSが低下してPBRは上昇します。
株価が割安かどうか?というのはPBRだけではなく、PER、ROE、配当利回りなどその他の要素も含めて考慮する必要があるため、このPBRの増減だけで判断はできません。
⑤ROEの向上
ROE(Return On Equity)は日本語に訳すと【 自己資本利益率 】です。
企業の資本に対して、年間でどれくらい収益を上げているかを表しており、企業の収益性を示す指標となります。
ROEは「%」で表され、数値が高いほど良い(=資本効率が高い)とされます。
ROE=EPS(1株当たりの純利益)÷BPS(1株当たりの純資産)で計算します。
【 例 】純利益が1000万円、純資産が1億円の企業
※EPS、BPSは「1株当たり」の数値を表す
※イメージしやすいように大きな金額で計算します
元々は
ROE=1000万円÷1億円×100=10%
自社株買いは企業の自己資本を使って行われるため、2000万円の自社株買いを行ったとすると
ROE=1000万円÷(1億円-2000万円)×100=12.5%
自社株買いによって、ROEが2.5%向上しました。
繰り返しになりますが、ROEが向上したということは企業の収益性が良くなったということになります。
⑥ストックオプションになる
ストックオプションとは、あらかじめ決めた株価で自社株を購入できる権利のことです。
その時の購入価格は「権利行使価格」と呼ばれ、目先の株価が変動しても権利行使価格は決められた価格のままとなります。
企業の役員や従業員にストックオプションを与えておき、会社の成長や業績向上によって株価が上昇したタイミングで権利行使価格で購入、ということが可能です。
購入した株はもちろん売却することができるので、状況によって安全かつ大きな利益を得ることができます。
【 例 】
Nissi株式会社の3000株を1000円の権利行使価格にてストックオプション
好業績によって株価が1500円になったところでストックオプションを行使して購入、すぐに売却して3000株×(1500円-1000円)=150万円の利益
⑦配当金の減少になる
株主にとって嬉しい配当金ですが、企業側から見ると資産の放出になります。
会社が存続するためには株主に支えてもらう(=継続して株式を保有してもらう)必要があるため、「株主のために配当金は出したいけど、出し過ぎるのも難しい」というジレンマがあります。
配当金の総額は流通している株式数に比例するため、自社株買いを行えばその分の配当金は出す必要が無くなります。
⑧敵対的買収の防止
敵対的買収とは、企業の間で意思確認や同意が無いまま買収を行うことです。
一般的に、企業の経営権を獲得するには過半数の株式取得が必要となります。
そのため、株式を全体の半数以上を獲得されてしまうと経営権も取られてしまう形になります。
企業は自社の持ち株比率が低ければ低いほど、敵対的買収に曝される危険性が高くなります。
自社株買いを行うことで、自社の持ち株比率を高めると同時に株価の上昇も見込めるため、買収されるリスクを軽減することができます。
補足ですが、対義語としては【 友好的買収 】があります。
こちらは双方の間の同意の元で行われる買収で、双方にとって良い効果が望める場合に実現することがあります。
⑨悪材料への対策
企業のIRを見ていると、業績悪化や事業縮小といった悪材料と同時に自社株買いを実施していることがあります。
悪材料が出ると株価は下落しますが、それを防ぐ目的で自社株買いをするということですね。
⑩自社株買いを発表した企業の紹介
自社株買いを発表した企業として、僕が一番長く保有している(9831)ヤマダ電機があります!
2020年4月1日のIRにて
・発行済株式数(自社株を除く)の11.4%に当たる1億株(金額で500億円)を上限に自社株買いをする
という情報が発表されました。
大抵の場合、自社株買いは発行済株式数の数%なので相当な規模の自社株買いとなります。
株主優待が魅力的な銘柄なので、是非チェックしてみて下さい。